雨宿りとコールタール

  1. DIARY
  2. 1101 view

消えるものと残るもの

寒くなって雨音がぽつぽつと聞こえてきた。
もう半袖だけでは寒い気温になってきて、里山にも秋が迫って木々の葉も少し紅葉してきている。何かと忙しなく動いていると、ふとした時に目に止まるものは色艶やかだが、思い出すのはそれと裏腹に苦い思い出だったりする。

子どもの頃に外で遊ぼうとして雨が降ってきたので神社の屋根下で隠れるように遊んでいた時のこと。
神社の階段の脇に蓋に重石が置かれた感を見付けた。その蓋を外すと薬品臭のするドロドロの黒い液体が光って見えた。適当な長さの棒を見付けてかき混ぜると粘度の高い感触に好奇心を一層煽られた。ネバネバしてベタベタする黒い液体の正体がわからぬまま、棒切れの先から糸が垂れるように途切れず地面に滴った。子供心に真っ黒い蜂蜜のようなものだと喜んであちこちに擦り付けて遊んだ。

数日後、父親に呼ばれて叱られたのは言うまでもなく「あれはずっと消えないよ」と言われたことを今でもよく憶えている。
そして黒い蜂蜜の正体は「コールタール」と言うことも知った。

いつの間にかコールタールは無くなったのに今でもその跡は消えずに残っている。世の中には消したくても「消えないもの」が割とあるものだ。無理矢理に消したとしても、それは本人がそう思うだけで消えることはなく、単に忘れているだけか見ないふりをしているに過ぎない。そう言う意味で「忘れる」ことは便利だ。痛みは消えても傷は消えないのと似ているのかも知れない。

小雨の降る森の中は静かだった。
たまに近くでカケスが大きな声で鳴くのを聴き晩秋の気配を感じさせる。今年はドングリやブナの実がたくさん落ちている。ブナの実が豊作だと熊の食料も安定し、農作物への被害が少ないと聞くことがある。そうであって欲しいのだが。

コーヒー豆の買い付けで海外へ行き、コーヒー豆の消費国と生産国で多くのバリスタと出会いコーヒーの世界観はまだまだ広がっていく。人の魅力はどこからやってくるのか、撮影の折にいつも思う。美しさとは何なのか、近年のテーマとなっている。旅はこれからだ。

caffe gita yuzawa / caffe gita yokote オーナー
株式会社 gita 代表取締役

記事一覧

関連記事

2022年もよろしくお願いいたします。

あっという間に過ぎたと言ってしまえば2021年は何もなかったように感じてしまうが、振り返ればこれまた多くの皆様に支えられて来たと心にズシっと重みを感じている。もうコロナ禍…

  • 359 view

ある日の森

クマがやって来た早いもので9月も終わりかけになった。8月の暑さはお盆前からの長雨で穏やかになって夏は急に大人しくなっていった。それでも時折の晴れ間にはミンミン…

  • 410 view

8月1日

あっという間に8月になった梅雨入りから梅雨明けまでの景色は草の背丈で夏を感じてこれたのだけど、梅雨明けしたら途端に暑くなった。今年は強い雨が局所的に降って…

  • 252 view

季節は巡り秋

虫の音が響く夜と潮騒夏が過ぎて秋がやってきた。夏は酷暑だった。夏の甲子園は103年ぶりの決勝進出だった。しかし決勝戦では大阪桐蔭に敗れてしまっ…

  • 384 view

落ち葉とコーヒーの香り

空気が冷たくて気持ちがいい夕方の散歩が日課になりつつあって歩くとこんなにも寒くなったかと夏を思い返す。夏の酷暑を思い出そうとするのだが、なかなか出てこない…

  • 426 view

窓ガラスに張り付いた雨蛙

俄雨周囲が暗くなって少し風向きが変わると一気に雨が降り始めると、蝉の声が小さくなり蛙の声に変わっていった。カップの中にはコロンビアとマンデリンで作った…

  • 541 view