足元に蜂が落ちていた。
もう息絶え絶えに動かなくなっていて、ツンツンとしても微かに触覚が動いたような気がするくらいだった。ここで絶えるのも不憫と思い窓の外へ運び出すと、のそのそと動き始めたがどうにも動けないようだ。そこで甘いものを上げようとメープルシロップをキッチンペーパーに染み込ませてあげると蜂からストローのようなものが伸びてきてスイスイと舐め始めた。ゆっくり10分ほどそれを見ているうちにお腹がヒクヒクと動き始めて蜂らしくなってきた。何だか体毛もふわふわに息を吹き返したようにモコモコと膨らんだいるようにも見えた。
その後、毛繕いみたいに顔を拭いたり羽を伸ばしてみたりしている内に、その蜂はフワッと浮き飛んで行った。
よかった。
子供の頃からたくさん蜂に刺されてきた。
そして大人になるにつれて蜂に刺されるのが怖くなり、ついには嫌いになった。しかし、この蜂は多分、昨日エスプレッソのメッシュ合わせしていた時にコーヒー豆の辺りをぐるぐると偵察してた蜂に違いないと、少し大きさと色を覚えている。コーヒーの香りにつられて来たかと少しだけ可愛く思えていた。そんな蜂が元気になって本当によかった。
そう気分を良くしたところで、子猫のピノがご飯を済ませて振り向きざまに店長の足元に顔をこすると、店長は「かわいいな」と一言発し撫でていた。
「もしもだよ、俺が魔法にかけられ子猫になってしまったらどうする?撫でる?」そう聞くと、
「撫でません!」
聞く相手を間違えると急に寂しい気持ちになるもんだ。
人間は咄嗟の出来事に複雑な感情のもと生きているんだな。
それではまた。