雨宿りとコールタール

  1. DIARY
  2. 1356 view

消えるものと残るもの

寒くなって雨音がぽつぽつと聞こえてきた。
もう半袖だけでは寒い気温になってきて、里山にも秋が迫って木々の葉も少し紅葉してきている。何かと忙しなく動いていると、ふとした時に目に止まるものは色艶やかだが、思い出すのはそれと裏腹に苦い思い出だったりする。

子どもの頃に外で遊ぼうとして雨が降ってきたので神社の屋根下で隠れるように遊んでいた時のこと。
神社の階段の脇に蓋に重石が置かれた感を見付けた。その蓋を外すと薬品臭のするドロドロの黒い液体が光って見えた。適当な長さの棒を見付けてかき混ぜると粘度の高い感触に好奇心を一層煽られた。ネバネバしてベタベタする黒い液体の正体がわからぬまま、棒切れの先から糸が垂れるように途切れず地面に滴った。子供心に真っ黒い蜂蜜のようなものだと喜んであちこちに擦り付けて遊んだ。

数日後、父親に呼ばれて叱られたのは言うまでもなく「あれはずっと消えないよ」と言われたことを今でもよく憶えている。
そして黒い蜂蜜の正体は「コールタール」と言うことも知った。

いつの間にかコールタールは無くなったのに今でもその跡は消えずに残っている。世の中には消したくても「消えないもの」が割とあるものだ。無理矢理に消したとしても、それは本人がそう思うだけで消えることはなく、単に忘れているだけか見ないふりをしているに過ぎない。そう言う意味で「忘れる」ことは便利だ。痛みは消えても傷は消えないのと似ているのかも知れない。

小雨の降る森の中は静かだった。
たまに近くでカケスが大きな声で鳴くのを聴き晩秋の気配を感じさせる。今年はドングリやブナの実がたくさん落ちている。ブナの実が豊作だと熊の食料も安定し、農作物への被害が少ないと聞くことがある。そうであって欲しいのだが。

コーヒー豆の買い付けで海外へ行き、コーヒー豆の消費国と生産国で多くのバリスタと出会いコーヒーの世界観はまだまだ広がっていく。人の魅力はどこからやってくるのか、撮影の折にいつも思う。美しさとは何なのか、近年のテーマとなっている。旅はこれからだ。

caffe gita yuzawa / caffe gita yokote オーナー
株式会社 gita 代表取締役

記事一覧

関連記事

梅と桜の蕾が膨らんで

春を待っていた4月に入りあっという間にそろそろGWといった雰囲気になった。今年は10連休だそうで、とにかく長いね。羨ましい。それはそうと先日は綺麗な満月の…

  • 366 view

よく冷えた朝には

蛇口からお水が出なくなるここ数日間よく冷えた。-15度を下回った。ストーブを焚いていてもいつもより寒いし、雪の上を歩くとキュッキュと鳴くのだからまるで北海…

  • 308 view

考える時間

いつも同じでないことへの理解カップに入ったコーヒーや豆は見た目はなんでも同じように思われていることがまだまだ多いように思う。コンビニやスーパーのコーヒーや、近…

  • 546 view

八月

長梅雨のようで、スパッと晴れる日がない。時折雲が切れて綺麗な空が広がっていると、ついつい嬉しくなってプラプラと出かけては、童心に帰ったように夜道の街灯の下をカ…

  • 462 view

もし子猫になった場合

足元に蜂が落ちていた。もう息絶え絶えに動かなくなっていて、ツンツンとしても微かに触覚が動いたような気がするくらいだった。ここで絶えるのも不憫と思い窓の外へ運び出す…

  • 296 view

屋根に雨音が響いている。しかし…

新型コロナウィルスは自分の首まで絞めさせるのか春先の景色にしては雪解けが早い。近くの側溝に流れる水の勢いは割と穏やかで緑が広がり始めた。賑やかだったフキノトウやフ…

  • 471 view