好きと、美味しいコーヒー

  1. COFFEE
  2. 466 view

自分の「好きと美味しい」はどこからやって来るのか?

言葉の意味だけでは然して面白味もなく、端的になってしまう。
「好きと、美味しい」はどちらも似ていて状況などによって変化していく場合だってある。ただ、どちらもシンプルで明快な言葉であるから、日常的に使う頻度は高いような気がする。だからこそ、なぜそう感じるのか、なぜそう思うのか、それはどこからやって来るのだろうとふと思った。

マンデリン ブルーリントンが新豆で入荷した。
このコーヒー豆には強く思い入れがあって、9年ほど前になるが(株)マツモトコーヒーの松本さんに声をかけて頂き、初めてブルーリントンが育つ農園を訪れた。小虫が目の前をちらちらと飛び回る藪を抜けて森の中へ進んで行くとコーヒーの木立が並んでいた。広くはないが腐葉土でフカフカの土の上をゆっくり歩きながら眺めたのを思い出す。インドネシアへ来たのも、コーヒー農園を見たのも、何もかもが初めてで森に吸い込まれてしまっていた。しかし、どうしたことか少しはコーヒーを知った気持ちになったかと思えば、そんなことは全く無くてここからが再スタートだと決め込んでしまった。それまでの知識や経験はここに置いて帰ろうと思ったのだ。

そして身軽になった。

それ以来コーヒーというものが、いつもと違って見えるのが可笑しかった。
あれもこれもと欲張り、腕を磨いて誰よりも美味しいコーヒーを作るんだという情熱は乾いて粉々に散っていったが、それまでのブルーリントンと、ここからのブルーリントンへの想いが一新された。それは物が変化したということではなくて、自分が変化したという言わば身勝手なモデルチェンジを遂げたのだろう。どうしたら美味しく焙煎できるのだろうと修練することは大切だが、もっと広くコーヒーへ焦点を向けられた上での技術の練磨がいい。その頃から美味しさを追いかけなくなっていたが、美味しさはどこから来るのかを気にし始めたのもこの頃からだ。

粘液のようにベットリと肌に張り付く夜の熱気や、ドブ川で釣り糸を垂れている2人も、ハエが真っ黒にたかってしまった食材を見た蒼白も、眩しい原色の花や人たちも、轟音を立てるスコールも、見たもの触れたもの全てがブルーリントンと結びついていき重く厚くなった。

自由であれ

何であっても慣れてくると自分の中でレシピが生まれてくる。
それは正攻法であり、実験的でありと、柔らかに構えていられるようになる。ただ、どこかで囚われていることにも気がつくと途端に踠き始める。焙煎にしても抽出にしても、もっと自由であって欲しい。それらがどんどん科学的に分析されて、数値化され指標が出来つつあればこそ、足元に藻が絡んで転んでしまわないようにしたい。多くは実績に基づいて説得力のあるものを選ぶが、それが本当に違和感が無いものなのかくらいはしっかりと自分で賞味した方が良い。

「好き」は決められる。
「美味しい」は主観と客観性で多くを教えてくれる。

物言わず咄嗟に飛び出してくる奥底の声をじっくり感じてみるのも暇つぶしにはお勧めだったりする。

そうそう、先に書いたように、出かけて行った先であらゆるモノを括り付けて太ったブルーリントンの新豆は、浅煎りにすると煌めくような酸とライムやハーブを織り込んだようなエキゾチックさがあって面白いし、深めに焙煎していくとチョコレートや、黒糖、蜂蜜、ほのかにグズベリーに似た余韻が感じられて上質を感じさせてくれる。

そのどこを感じ取ろうと思って頂けるかが、私にとっての「美味しさ」の現れになると思う。

それではまた。

コーヒー豆の買い付けで海外へ行き、コーヒー豆の消費国と生産国で多くのバリスタと出会いコーヒーの世界観はまだまだ広がっていく。人の魅力はどこからやってくるのか、撮影の折にいつも思う。美しさとは何なのか、近年のテーマとなっている。旅はこれからだ。

caffe gita yuzawa / caffe gita yokote オーナー
株式会社 gita 代表取締役

記事一覧

関連記事

コーヒーについて

10月に入り朝と夜は寒くなった。そろそろストーブに火を着けたいと悩んでしまう気温だ。だから長袖を着て机に向かっている。先日、久しぶりに神戸へ行きコーヒ…

  • 519 view

エスプレッソの美味しさ、バリスタの謙虚さ

凝縮感をコントロールしていくエスプレッソを美味しく抽出するのは、そもそものところ「エスプレッソはどういうものなのか?」ということや「どういうエスプレッソを抽出…

  • 1323 view

ルワンダ新入荷

インゾブ スプリーム随分以前にルワンダのコーヒーを使ったことがあり、それ以来の入荷です。今回のコーヒー豆はしっかりとした味わいがあり力強い印象です。香りはフラ…

  • 654 view

エレガントコーヒー

コーヒーの香りはもちろん大切ですが『質感』も同様です。「香り」と「質感」その2つが合わさってこそ、コーヒーの魅力は倍増していきます。バランスのとれた焙煎をするのは難し…

  • 681 view

ホールインワン

思い描くところでパチンと音が鳴るように焙煎が上手く仕上がると嬉しいものだ。そしたらドリップやエスプレッソだって狙いを定めたらもっと素敵なコーヒーの準備ができる…

  • 330 view