スペシャルティコーヒー豆が持つ個性を知る
思い出
コーヒー豆の焙煎はいつもワクワクする。学生の頃にコーヒー豆屋さんに買いに出かけ、カウンター前で豆のことを聞くのが好きだったから、いつも思い付いては聞いていた。単純に香りや味の違い、酸味があるのかないのか、今思えば知りたいことだけ聞いてそれきりだったような気がする。店内に漂う焙煎の煙が衣服について、帰り途中の車の中でいい香りだなっていつも思っていた。それから秋田に戻ることになり、秋田に戻ったらコーヒー屋さんになりたいと伝えると、店主から焙煎してごらんと数百グラムの生豆を受け取り、100円で買った小鍋で焙煎した。アパートの狭い部屋は煙で真っ白になり焙煎の香りに包まれた。
実家の自分の部屋で小さな焙煎機で毎日焙煎をして飲みきれない量をどうしようかと思い、とりあえず冷凍してストックした。友人知人にあげたりしながら、今思えば自己満足でしかなかったのかも知れないが仕事となるまでは長い時間がかかったように思う。その後に神戸の(株)マツモトコーヒーの松本さんと出会い、様々な経験をさせてくれた。一緒にコーヒーを飲んだり、美味しいご飯を食べて味覚を鍛えたり、出張の際に声をかけてくれて各国の農園主に合わせてくれたり、時には商談の席に同席させてくれたりした。そして数年前からは一緒に海外視察へ行ったりしている。焙煎は2回見せてくれて、抽出は1回見せてくれた。これもなかなか良い思い出だ。
焙煎を楽しんで育てる
擦り込まれた感覚と積み上がる経験は、自分の技術に変化したり言葉として外に出てくるのだと理解する。どう焙煎するのかの前に、どんなコーヒーなのかを知ることが大切だ。それにはまずコーヒーを飲むことが大切で、カッピングしたりドリップしたり、抽出方法を変えてみたりと豆の持つ個性や味を理解することだ。この時のリズム感が重要で、松本さんと一緒にカッピングした時に後に続いて同じスピードで進むようにしていた。日本でも海外でもかなりの数をカップしていると、いちいち考えてはいられないこともあるので、感覚をフルに使って感触をキャッチしていく。「考えるな、感じろ」とでも言えば近いかな。感触は温度変化でも違ってくるので何度も繰り返す。これは訓練のようなものかも知れないので「美味しいや、まずい」を探すのではなく、「良質か、そうでないか」を探す感覚だろうか。
焙煎は様々な考えを持つこともできるので、もしかすると正しい焙煎理論というのはないのかも知れないが、個々に持つ焙煎理論は育てていった方が良いと思う。スペシャルティコーヒー豆はとても豊かなコーヒーなので含有されている魅力を十分に再現させていきたい。そして、そのポイントがどこにあるのかを知るのも大切になる。旅の計画は苦手だが、コーヒーになるとそうはしない。どこで何が入手できるかを想像し実践していく。こう書けば無計画な旅というのも可笑しいかも知れない。旅は実戦でどんどん変化していき、自分にマッチするその度にちょうどよい自分を知ることがある。いつか書いたが、私自身は料理することに例えて考える。それが素材の香りや味わいをどう楽しめるだろうかと毎日が挑戦だ。
スペシャルティコーヒー豆の持つ面白さは、自分で組み立てられる柔軟さがあると思う。答えを求めるより、自分の出した答えを信じることで、新しい答えが見つかるのだと思う。