日本で最も美しい村 季刊誌取材 鶴居村編 最終回

  1. PHOTO&DESIGN
  2. 383 view

鶴の鳴き声

雪裡川へ。
前日の夜、仕入れたチーズとワインで長いこと話をしていた。眠気は寒さで吹っ飛んだ。車で十数分、丹頂の人気撮影スポットの雪裡川に掛かる橋を訪れると既に大型バスやキャンピングカーで駐車場は埋まってきていた。駐車場の隅に止めてカメラをぶら下げて歩くと頬がピリピリと寒さにしみて痛い。橋の上に着くと大勢の人が丹頂を撮影している。

次第に夜が明けてくるとカメラマンの数がぐっと増えた。ここは人気スポットの一つであり諸外国の方も多い。近年はトラブルも増えてきていると聞いていたが、何となくその雰囲気がわかる気がした。私のカメラを見たかと思うと目の前に三脚を立てて陣取ってしまった。確かに50mmレンズを装着してあの遠くの丹頂を撮るわけではない。

橋の上にはどんどんどんどん人がやって来て3列から4列になり前の人の方から後ろの人は撮影する格好となり、鶴の鳴き声がする方へ集中している。橋の上はこの日はこれでも温かかったらしく-12度くらいだそうだ。1時間半ほど橋の上で人を眺め丹頂を眺めながら寒さに震えていたが早朝の出来事とは思えない歓声やシャッターの音だった。

宿へ戻り朝食と行きたいところだが、あまりの寒さにそのまま温泉へザブーン。氷が融ける音が聞こえた気がした。そして敦賀頭上を越えていったときの景色を思い出して温まった。

鶴居村にある「ホテルTAITO」のオーナーであり写真家でもある和田さんを訪ねた。
柔和なお人柄、それが伺える写真の数々。丹頂への愛情が溢れてくる。夏場は湿原へのガイドなどももちろんしているとのこと。私の勝手な感覚だが、土地を知ることで自分が知れてくるのだ。それは自分のいる場所を知らないと、そこでの自分を知れない。ここでどう在るのか。小さな哲学が産まれる箇所であると思う。私も秋田へ戻って来てから自分が住もうとしている場所を再確認してきた。和田さんのお話を聞いていてそのようなことを思い出していた。

鶴居・伊藤タンチョウサンクチュアリへ。
ここでは牧草地に丹頂が飛来し給餌している。ここでも丹頂の生態など丁寧にお話ししてくれた。窓からは集まる丹頂の個体数を時間帯でチェックしている。地域で丹頂を見守っている気持ちが伝わってくる。

ハートンツリー 服部さんを訪ねる。
牧草地を越えて小高い山に入ると眺めの良い丘の上で営業されている。地元食材を使い手作りのメニューが美味しそうだ。とびきり美味しい牛乳をご馳走してくれた。濃厚で甘みが強いのにサラサラしている。もう1杯と言いたかったがまた今度にしようと我慢。楽しむことが伝わってくる。まずは自分が楽しまなければ、そんな気持ちが呼び起こされた。分かっているつもりでも日常業務に追われて過ぎてしまう時間が多い。楽しんでいる人の表情は真剣で素敵だ。

大切なことは

仕事ができるも生産性が高いも時には重要だが、自分らしく生きているという本質は見失ってはいけない。世の中には素敵な言葉や歌もあるが、それを生かすのは個人だといううこと。隣を見て羨ましくなる世界だからこそ、自分らしさは小さくとも産み出し育てて欲しいと思う。

今回の取材では小さな自分がいた。
どこから現れたかわからないが、おそらくは自分らしさを忘れそうな自分だろう。ぼんやりと気付かされ、じわじわと思い出す。

コーヒー豆の買い付けで海外へ行き、コーヒー豆の消費国と生産国で多くのバリスタと出会いコーヒーの世界観はまだまだ広がっていく。人の魅力はどこからやってくるのか、撮影の折にいつも思う。美しさとは何なのか、近年のテーマとなっている。旅はこれからだ。

caffe gita yuzawa / caffe gita yokote オーナー
株式会社 gita 代表取締役

記事一覧

関連記事

南阿蘇

南阿蘇鉄道九州は温かいと勝手な思い込みで随分と寒く感じる。秋田のように毎日マイナス気温や吹雪ではないことくらいは知っているけど、聞けばここは大体仙台と同じくらいの気温…

  • 260 view

出張先で知ること

何を知るのかは自分次第目の前に広がっている、もしくは迫ってくることなど、どれを拾い上げていくかで何かが決まり動いていくのだ。ご当地の味わいの蓋を開けた時に香る…

  • 219 view