グァテマラへ行く
2012年2月、中南米の農園視察へ出発する。
グァテマラという国名はコーヒーを飲み始めた頃に覚えた程度で、もしかするとコーヒーを飲まない人生ならば気にも留めないで過ごしていたかも知れない。中南米と聞くと治安の悪さが目立つため、ましてコーヒーの生産地となるとよりディープな地区の通過もあり得るとのことを聴いてゾクゾクした。コーヒーの仕事をしてグァテマラに憧れていた。もう漠然ととしか言いようがないのだが、いつか訪れたい気持ちでいたから嬉しかった。まずは真冬の秋田から成田空港へ向かう。そこで前泊し翌日お昼のフライトだ。そして長旅になる。
秋田空港は雪。羽田空港まで向かう。羽田で友人のコーヒー屋さんと合流して成田空港近くのホテルへ。
羽田空港で兄に迎えに来てもらいホテルまで送ってもらった。ホテルに着き夕食をとりたかったが館内は閉店しておりルームサービスでチキンカレーを頼んだ。今回は2人部屋で早々に就寝しようとなりベッドへ入るが眠れない。いびきが気になったりグァテマラのことを考えると眠れない。落ち着かないまま朝を迎えた。
早めに空港に行き、出国手続きを済ませ待ち合わせのためサクララウンジへ。チケットはどういうことか予約した通路側でなく窓側になっていた。問い合わせると予約した時点では通路側だったとのこと… ただいまからの変更は不可とのこと。
成田空港ーシカゴーマイアミーグァテマラという旅程だ。とりあえずシカゴへ向かう。
昨日から寝ていないのでぐっすり眠れるだろうと思っていたが全く眠れない。映画を見て、本を読んで、機内食くらいが楽しみ。海外へ行った際の機内では腕時計は見ないことにしようと決めたのがこの日だったな。
満席の機内で孤独感を味わう。
夕暮れなのか夜明けなのか、綺麗な空に包まれていた。
約13時間ほどでシカゴ到着した。1時間遅れの到着になったためと、私がイミグレーションで3度も止められてしまったりと乗り継ぎ便に遅れてしまった。2時間ほど時間を潰してマイアミへ向かう。
機内に乗り込み本を広げて眠くなるまで文字を追うようにした。頭の中にはグァテマラのこと。文字は通過してしまった。
マイアミ到着。時間があるので空港の外へ出てみた。リゾート雰囲気たっぷり。暑い。
グァテマラに向けて離陸するとドキドキした。
カリブ海上空。日本を出てから20時間以上座りっぱなしで疲れていたが夜空を見たら軽くなった。いよいよグァテマラだ。
グァテマラシティ到着。長かった。遠かった。
ホテルについて早々にディナータイム。寝不足と疲労もそこそこに赤ワインが美味しかった。翌朝5時起き、案の定眠れない。嘘だろ?と不思議に考えたら時差は15時間あるので、ここに来た時点で時差ぼけなのかも知れない。ベッドには枕がたくさんあってなんだか嬉しかった。
結局2時間ほどしか眠れずに5時起床。ホテルの玄関を出てみると街の音が騒々しい。花壇には綺麗な花が咲いていてハチドリが蜜を吸っていた。ボンネットバスがかっこいい。
アテンドしていただく現地のエクスポーターに挨拶をし車に乗り込む。車の運転が荒くてあっという間に少し酔って自信をなくす。いつもはそんなことないのに、自己管理は徹底しないとならぬ。市街地を猛スピードで駆け抜け、小さな町をすり抜け、こじんまりとした村に向かっているようだ。景色はのどかになってきている。遠くにアグア火山が見える。
色とりどりの衣装着た女性たちが目につく。グァテマラ織らしくとても綺麗な配色だった。
いつの間にか舗装路は砂利道になり土煙を立てて走る。一瞬熊かと思ったら黒牛だった。なぜ止まったのだと思って降りると小さなコーヒーの木々が植わっていた。想像した農園と違う。道路脇にはゴミが結構あり決して綺麗ではない。
少々物足りない感が漂い困惑する。こんなものではないはずだと周囲の顔を眺めて確信する。
子供達が不審げに見てくる。好奇心を隠して観察されているのがもどかしい。
この辺りでは農家がコーヒーをメインに育てているわけではなくトウモロコシなどで生計を立てているとのこと。
さらに山道を登り進む。少しコーヒーに囲まれると安心する。
さてどんどん進むぞ。
ここを家だと言われた時にいろいろと思うことも考えることも増えた。コーヒー豆の生産地と消費国と隔たりなど。
少し歩くと子供達がアイスクリーム屋さんからアイスを買いに出てきた。日本から持参したキャンディを渡したら喜んでくれた。
少し街へ戻り昼食。トウモロコシ粉で作るトルティーヤと数種類のステーキ、ピクルスやアボカドディップ。初めて食べるトルティーヤは楽しみだったが想像していた味よりも食べにくく苦労する。お肉は赤身中心で好みだった。
野良ヤギはゴミをあさっていた。あまりの勢いにたじろいだ。
さらにさらに山道を登りひた走る。標高も高くなってきて少し涼しい。コーヒーの木々とシェードツリーが迎えてくれた。
訪れた農園は綺麗に管理されておりどこかで見た雑誌の中のようであった。黄色のコーヒーチェリーが美しく見えた。
農園では様々な品種を植えてあり苗木や苗床を見学させてくれた。心地よい湿度と気温が園内を歩いていて伝わってくる。
一路アンティグアへ向かう。世界遺産に登録されているアンティグアは観光客も多く訪れる町であり、比較的治安も良いようだ。夜にはホテルから歩いてイタリアンレストランへ向かった。『よう来たなぁ』と神戸の(株)マツモトコーヒーの松本さんに言われた時には感慨深い思いがあった。振り返り遡れば自分の部屋から始まったコーヒー屋ががむしゃらに踏ん張り、叱咤激励されてここまで足を伸ばせた。
アンティグアでの宿泊は「SANTO DOMINGO」という五つ星ホテル。修道院に使われていた石造りのホテルでものすごく趣のあるホテルだった。蝋燭で照らされた回廊や館内には日本では味わえない特異な雰囲気が漂っていた。各部屋には暖炉が設えてあり、少し寒いので火をつけた。暖炉の灯りは暗い室内をゆらゆらと影を作りながらゆっくりと燃えていた。レストランで残ったものを持ち帰り2次会をした。ロビーで飲んだ極上のラム酒の思い出しながら苦手なビールを飲んだ。
翌朝も5次起床。早めの朝食をとり精製工場へ。広いパティオに一面にパーチメントが敷き詰められている。たまにグァテマラの豆に混ざっているレンガの欠片はここのものだったのかと気が付く。
集荷したコーヒーチェリーをタンクへ入れる作業は力仕事。
パティオで乾燥中のパーチメントは白い貝殻のように眩しい。
工場管内では女性たちが集まり丁寧にハンドピックをしている。室内には生豆の甘酸っぱい香りが充満している。
原料生豆をトラックへ積み込む作業は男性の仕事。69kgの麻袋を軽々と持ち上げる。
精製工場の視察を終えて他の農園へ来た。綺麗な小川が流れており完熟したコーヒーチェリーがあった。ここのチェリーはとても甘くて驚いた。家族総出で収穫していた。
綺麗な瞳で見られると色々と話してみたくなる。言葉は通じないが手持ちのキャンディを手渡す。見慣れぬ大人がぞろぞろと車から降りてきたらびっくりもするよね。
生産地で見るコーヒーの景色には、農園という景観とそこで働く人たちがある。どうしても私の場合は人にフォーカスを当ててしまう。そのコーヒーを取り囲む環境にどんな人たちが関わっているのか。これには興味だけではなく何か責任のように重いものを感じてしまう。
一路グァテマラシティへ戻り輸出商社でカッピング。どれを選ぶかだ。そのコーヒーが変化するのかそうでないのか、より良い品質を探す。スペシャルティコーヒーと言っても様々で個性豊かな豆、味わいが綺麗な豆、バランスに優れている豆や口当たりの質感が良いものなどなど。
カッピングを終えて一度ホテルへ戻る。夕食までの間少し休憩。夕食は日本食の食堂へ行った。そこでは刺身の盛り合わせが出てきて、おそらくは熱帯魚の類のものと貝類、マグロなど。ドキドキしながら食した。その後お酒を少し飲みホテルへ戻ると銃声が聞こえてきた。数分後に数台のパトカーがホテルの近くに止まった。
翌朝3時起床し空港へ向かう。そしてコスタリカへ向かう。
グァテマラで見たコーヒーはまだまだ一部に過ぎず、むしろ何度も通わないと体感できないコーヒーがあると確信する。1度見ただけではどうにも分からないことがたくさん増えてきている。困惑とは違い、知識だけでコーヒーを触っていたにすぎないことが理解できた。自分にとってのコーヒーに感触が生まれたことは何よりの収穫だった。一杯のコーヒーを抽出し提供するまで約2〜3分。しかし、コーヒーの背景にはたくさんの人たちが織り成す物語が存在していることを知ると視野は広がって吸収したい思いが強くなってきた。美味しいコーヒーと一言では、一つのものを指せなくなった自分と引き換えに得たものも大いにある。