秋田で田舎暮らしとコーヒー

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私の住む秋田県湯沢市は人口約4万7千人ほどの小さな街だ。コーヒー屋を開業して15年が経った。今でこそスペシャルティコーヒーを知る人は多くなってきたが、当時はそれがどういうものか知る由もなかったと思う。専門誌などでは勢いが出てきた頃だったかな、自分自身でもよく理解していなかったのではないかと記憶している。全く未知なる領域に足を踏み入れ、周囲の反対を押し切り勢いに任せてきたように思う。コーヒーの品質に目を向けられずにいたものだから、美味しくないのは全て自分の技量のせいにして落胆した。毎日焙煎して、毎日破棄してしまった。どうしてもゴミ箱へ捨てられなくて畑にこっそり撒いた。田舎では焙煎もコーヒーのことも教えてもらえる環境もなく、一人で朝までネットで調べたりして勉強したつもりでいた。コーヒーを美味しく作りたい一心だったのを今でも鮮明に憶えている。今だから分かることも少なくない。
 
「美味しい」は主観性が高いから厄介だ。
あくまで私の場合だが、自分の「美味しい」を追いかけるとどこか知らない世界へ移動した心持に感じていた。どんどん孤独感が強くなってきて不安になった。冬になれば雪が酷く積もりお客さんの足も遠のく。湯沢市は豪雪地域なので冬の田舎暮らしは精神的に堪えることが多い。白く美しい雪なのにこんなに冷たくて孤独を感じさせるものだと大人になってから感じた。夏は「日本の夏」らしく気持ち良いが、コーヒーの売れ行きは全体的に減少する。田舎暮らしの中でコーヒーとの生活は目標をしっかり持たないと精神を削られていくものだった。
 

田舎暮らしを悪く書いているように感じるが決してそうではない。要は自分自身の準備が足りなかったことで目の前の景色は理想からかけ離れたものに映っていただけだ。若い気のまま勢いで走り体力はあるが気持ちは育っていないから環境のせいにしてきた。都合の良いことばかりを正当な角度から言って吠えていたと思うと、苦笑を通り越し、今からその頃の自分に会いに行ってホイッと投げ飛ばしてやりたい気分になる。
 
田舎暮らしをしようとしていない自分、楽しもうとしていなかった自分、自分を変えようとしない自分など、挙げたらきりがない。こんな素敵な地域に育って、自分の好き勝手にやってきて此処じゃ無理だと吠えたりと世間知らずも甚だしい。そんな奴はどこへ行っても変わらん。

しかし、そんな自分でもできることから始めようとすることにした。正直者は馬鹿を見るなんていうが、あれは本当かも知れない。しかし「素直」は武器になる。思えば私は吠えていたわりには素直だったと思う。自分に何が出来るかなんて、やったこともないのでとにかく何でもやってみた。コーヒーを売るために何でもやってみた。自分の得意分野を探し始めた頃から状況が変わってきた。

「コーヒーがうまいのは知っているが、君が何者なのか知らん」

そう言われて本当に衝撃だった。今まで小さな世界で生きていたのだと知った。少し反省する気持ちはあったが、とても悔しかった。

なるほどね、自分を知ってもらえたらコーヒーも美味しくなるかもね。楽しい買い物になるかもね。ってそう考えてからは気持ちが楽になった。もっと外に出ようと踏ん張りコーヒーの生産地へ足を伸ばした。日本中を訪ね歩いた。
 
田舎に居たってこんなに外と繋がっていられるのだ。どこにいたって自分次第で広い世界へ飛んでいける。ここの田舎はとても良い土地だ。風土豊かで人の情もある。しかし、人口減少が著しく今後15年も経てば大変な状況になることが推測されている。まるで無視できない問題だ。自分より若い世代が地元に戻る勇気を持つのが厳しい状況だろう。それでもこんな人間がここで楽しくやっていることで何かしらの励みになれたら幸いだ。

しかし、先日貰った美味しい日本酒を飲みながらのこと、書いていくうちに書きたい本筋から少々ずれてしまった感はある。ま、美しさの中にある厳しさや理想と現実は、それに良きスパイスになっているのかも知れない。何もない「美しさや美味しさ」もあるだろうが、記憶に佇むものには何かしら温度を感じる。
 
最近の夜は星は綺麗だがすでに肌寒くて虫の鳴き声に包まれている。秋の気配を感じてしまう。帰省シーズンになり、どうか楽しいひと時をお過ごし頂きたい。

アバター

コーヒー豆の買い付けで海外へ行き、コーヒー豆の消費国と生産国で多くのバリスタと出会いコーヒーの世界観はまだまだ広がっていく。人の魅力はどこからやってくるのか、撮影の折にいつも思う。美しさとは何なのか、近年のテーマとなっている。旅はこれからだ。

caffe gita yuzawa / caffe gita yokote オーナー
株式会社 gita 代表取締役

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